六十、七十の、いわゆる旧憲法時代に成人された方ならいざしらず、まだ二十代、三十代のホワイトカラーたちが、現在の戸籍についてその程度の知識しか持ち合わせていないのかと、ちょっとびっくりしましたが、でも法律が改正されてまだ三十年そこそこでは、あるいは無理のないことかもしれません。もし、あなたが恋愛向きなら、 ←ここで将来の結婚に向けて経験値を増やしましょう。このあいだ、スイスのチューリヒにあるヨーデルで有名なレストランで、名物料理のフォンデュと歌のすばらしさにうっとりしていたら、突然、バンド・リーダーの口からぼくたち夫婦の名前が出たのでびっくりした。「みなさん、今夜は日本からお見えになったお客さま、平岩ご夫妻の第十九回目の結婚記念日です。お二人がいつまでも幸せであることをお祈りいたしましょう、おめでとう.:…」それを合図に二人の名前入りのケーキが運ばれ、ダンディな中年のバンド・リーダーの音頭で『幸せなら手をたたこう』の合唱がはじまった。あとで聞いたところによると、このアイデアは同行したぼくたちの友人の一人から出されたものだったが、そのときは場所がスイスだったことと、まったく思いがけないことだったのとでいささかどぎまぎした。でも、うれしかった。最近では、結婚して何年などと数えたこともなかったので、(へえ、もうそんなに経ってしまったのか……)と思った。四月の三日が、ぼくたちの結婚記念日だ。二人の共通の恩師長谷川伸先生がご高齢なので、なるべく先生のお宅の近くと思って、高輪プリンスホテルで披露宴をした。

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